最高裁判所大法廷 昭和24年(れ)2591号 判決 1950年9月27日
主文
本件上告を棄却する。
理由
弁護人森長英三郎、同青柳盛雄、同小沢茂の上告趣意第一点について。
原判決挙示の各証拠を綜合すれば、判示の戸別訪問につき被告人と氏名不詳の男との間に共謀のあったことが推認できる。従って被告人には戸別訪問の意思がなかったと主張する所論は採用できない。
なお原判決は、共犯者を「某男性」と判示しているが、これはその氏名か明白でないというだけのことであって、挙示の証拠に照らしてみれば実在の人物であることは明らかであるから、このように判示したからとて、所論のような違法あるものということはできない。
要するに論旨はいずれの点も採用することができない。
同上第二点について。
原判決は、被告人が立候補者堀江邑一に「投票を得させる目的を以て」鈴木きぬ他二名の宅を順次訪問し「堀江候補に投票方を依頼し」た旨判示している。これは、被告人において鈴木きぬ外二名の者が選挙権者であること、又は少くとも選挙権者であるかも知れないという認識をもっていたという事実の認定を含むものと解すべきである。そうして原則として凡ての成年者が選挙権を有している現行制度並びに原判決挙示の各証拠を照らし合せて考えれば、右のような認定は肯認できることであって、被告人は相手方に選挙権があるかどうかを知らなかったという所論は、原判決が採用しなかった証拠に基く主張であるから採用することができない。
同上第三点について。
選挙運動としての戸別訪問には種々の弊害を伴うので衆議院議員選挙法九八条、地方自治法七二条及び教育委員会法二八条等は、これを禁止している。その結果として言論の自由が幾分制限せられることもあり得よう。
しかし憲法二一条は絶対無制限の言論の自由を保障しているのではなく、公共の福祉のためにその時、所、方法等につき合理的制限のおのずから存することは、これを容認するものと考うべきであるから、選挙の公正を期するために戸別訪問を禁止した結果として、言論自由の制限をもたらすことがあるとしても、これ等の禁止規定を所論のように憲法に違反するものということはできない。それ故論旨は理由がない。
以上の理由により旧刑訴四四六条に従い主文のとおり判決する。
この判決は裁判官全員一致の意見によるものである。
(裁判長裁判官 塚崎直義 裁判官 長谷川太一郎 裁判官 沢田竹治郎 裁判官 霜山精一 裁判官 井上登 裁判官 小谷勝重 裁判官 齋藤悠輔 裁判官 藤田八郎 裁判官 岩松三郎 裁判官 河村又介 裁判官 穂積重遠)